終日暖気

    *大抵ネタバレしてとんちんかんな映画の感想など*

    The Lost Child of Philomena Lee  




    『The Lost Child of Philomena Lee』(邦題:あなたを抱きしめる日まで)
    マーティン・シックススミス著、宇丹貴代美訳(集英社文庫)



    50年、互いを探し続けた母子の実話…<文庫本カバーより>


    初読。久々に止まらなくなる本で一気に読み終えました。訳も良かった。
    映画に出演したジュディ・デンチ自身が寄せている序文が良かったので興味をもって購入したのですけど。

    はぁ~・・・。どう言えばいいのか、この、なんともいえない気持ち。
    読み終えて、まずはマイク(アンソニー)のために祈りたいと思いました。そしてフィロミーナのために。
    (というか、今日一日ずっと祈っていたいような気分だった)

    第1部は鼻水流れっぱなしという感じでしたが。(おさなごの描写がたまらないのだ)
    アイルランドの隠された歴史にもなかなかの衝撃を受けました。何千というフィロミーナとマイクがいたんだという。
    (当時、若く真っ当な理想主義者として必死に現実に立ち向かいほとんど孤軍奮闘していた、そして破れ絶望し家庭も壊れたアイルランド共和国の役人ジョー・コーラムは、その後どうなったんだろう。とても気になる。マイクが彼と話せていたら…とも思う)

    なにより、3歳まで実母がそばで愛情を持って必死に育てていたという事実のむごさに絶句。
    しかも、それを子供に伝えず隠しとおすってどういうエゴだ。
    すべてが崩壊して尚、だ。残酷以外の言葉を思い浮かべろと言われも無理。
    いたいけな子供時代の苦しみ、思春期における繊細で激しい苦悩、程度の差はあれ誰しも味わう部分がないわけではないけれど、必要以上に彼が苦しまなくてはならなかったのはその残酷な仕打ちのせいだ。帰属意識への強い渇望も。
    なにより、長じて隠せなくなってきたマイクの抱えるどうにもならない闇、空虚、不安、補いようのない欠落感を生んだ元凶としか思えない。
    この穴は一度あいたら、自身が死ぬまで消えないし、どんな幸福も慰めにはならないんだから。
    (おかげで彼も彼にかかわった人間もしばしば深く傷つく結果に陥っていた)
    彼の初体験のシーンも痛ましかったけれど、その後も明るい光の中にいるにも関わらずしばしば彼を襲う暗鬱な自罰めいた世界は、どうにも胸が痛むばかりだった。(それがなければ、フィロミーナと再会できたんじゃないのか、とどうしても思ってしまうのよね…。ニアミスもあったんだし、なによりマイクはいまも健在だったんじゃないかとか、つい…)

    ジャーナリストで作家でもある著者が強い愛情と節度ある共感を持って描き出すひとりの男性の生き方は、先が気になって気になってページをくる手が止まりません。
    時代に翻弄されたとても複雑で劇的ともいえるマイクの人生、努力家で多くの人に愛された彼が触れ合った さまざまな人々の描写も印象的。
    メアリー、養父母、精神科医、高校時代の国語教師、大学時代彼が告解していた神父、義理の伯父、恋人たち、エイズに罹ったことを手紙で知らせてきた友人、ロジャー・アラン・ムーア、スーザン・ガヴァナー、大統領たち…
    時代が時代だけに、そして個人的にも子供だったとはいえ、カーターとレーガンからアメリカを意識しだしたこともあってか、80年代のマイクの描写にはそれ以前の時代の描写以上になにか特別な何かが上乗せされた感じもしたな~。(私も生きてたよマイク!という。同時代感かな?)

    4部構成のこの小説、当時の政権に対するもっと激しい糾弾があるのかと思っていたけれど、あくまでもマイクの人生の一部として静かな(でも強い)皮肉といった表現になっていました。それがまたそのまま現代に繋がり、こちらの何かをぐっと突き刺すいう…。

    「これら指導的な階層の人々にとって、女性や同性愛者の平等な権利と堕胎に反対する運動は、ひとえに有用だから党が行っているという理解だった。・・・もしマイノリティを犠牲にする政策が多数の票をもたらすなら、それを採用するまでだ。・・・共和党を運営する人たちはおしなべて、再選を気にかける実利主義者だった」
    「紳士淑女のみなさん、今日の世界では、平和と自由の促進はたやすくありません。しかし、われわれは取り組まねばならないのです。二世紀近く前にエドマンド・バークが発した警告は、いまなお当を得ています。
    【悪を勝利に導くのは、唯一、善人が何もしないことだけだ】と。」(これ、なんとレーガンの演説!!)

    ふぅ~…。もっといろいろ感じたんだけれども、まだちょっと整理できないなァ。
    いまは、遠くアイルランドのロスクレアの墓地に思いを馳せるばかり…




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