終日暖気

    *大抵ネタバレしてとんちんかんな映画の感想など*

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    まぼろし  


    『SOUS LE SABLE』
    2001年 フランス














    初見。なんとなく気後れして見そびれていたオゾン監督作品をようやく観賞。

    やけに官能的でした。
    河や海や幹や古木の下のうごめく蟻、ベッドの古いシミや海岸の砂が。
    マリーの眼が見つめる夫の所有物のあれこれが。物音が。

    怖くて美しい話。

    まず生きているときの旦那さんが怖い。
    彼はどこか不健康で、時折疲れた虚ろな眼をするので。
    もしかして自殺だろうか、それとも事故なのだろうか。いや、やはり自殺ではないのか。
    そんな怖さを感じながら進む物語。(薬云々の話が出る前のほうがよほど恐ろしい)
    彼は突然マリーの前から消えた。

    友人たちとの食事。
    黒いドレスのマリーはあでやかで魅力的だけれど、
    笑顔で普通に話しながら突然みんなを凍りつかせる。
    彼ってまさかジャンのこと?彼女、大丈夫なのか? 視線が泳ぎだす友人たち。
    マリーは学生も見ないことにする。「あなたなんか知らないわ」。
    シンクロしていくかのようなヴァージニア・ウルフもなんとなく怖い。
    パスタのゆで方も怖いようなドキドキさせられるものがあったけど、ま、それは関係ないか・・・

    マリーはジャンを愛していた。ジャンの重さを愛していた。
    ジャンに依存していたのかもしれない。
    あのとき一緒に泳ぎにいけばよかった・・・
    計り知れない喪失感と後悔と見たくない気づきたくない何か。
    ジャンはマリーが彼を愛するほど彼女を愛していただろうか?

    マリーを苦しめるものが痛い。
    彼女だけに見える幻影のジャンはちっとも虚ろな眼などしていないのだ。
    苦しみの質が変わってくるのがつらい。私はすてられた?

    沿岸警備のバイトの男の子たちがみんなハンサムなのはオゾン監督らしくて笑える…。

    マリーとは違う視点で永遠にジャンを自分のものにしている義母を目の当たりにして
    突如現実的な行動をおこすマリー。
    「養老院より精神病院に入るべきだったわね」
    「あなたのほうが先に入るわ」
    ああ、オゾン監督。
    グロテスクで意地悪で美しいこと。
    セックスの最中にアハハハと笑いだし、「あなた軽いのよ」というのも相当だわ。
    二度目のときには、ジャンに覗かれているのを感じて満ち足りた表情で微笑んだりするし。

    ラスト、マリーの選択は義母のそれに近い。
    しかし、DNA鑑定の結果を改めて知らされて、ジャンと自分を繋いでいた証明、
    愛の証拠が何一つないこと、彼と自分が赤の他人であることをつきつけられた彼女の心は、
    もっと深く閉ざされた彼女だけの幸せな世界に沈んでいったようにも見えた…
    全然違うのかもしれないけれど少なくとも自分はそう感じた。


    原題は、砂の下で。
    うーん、やっぱり怖くて美しい話。オゾン監督の優しさってちょっと複雑だわ。

    シャーロット・ランプリングの眼差しがこの物語に欠かせないと思いました。
    易々とは同調を許さない青い瞳というのかなあ。
    きれいな、ちょっと独特の眼。
    『マックス、モナムール』をもう一度見たい。
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    category: 映画感想

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    nonsense!nonsense!  


    先日すっかりやられた95年映画『ネリーとムッシュ・アルノー』(邦題:「とまどい」)。
    あんまり好みの映画だったので、あれから3回見てしまった。
    じわじわ~っと幸せを感じながら、好き好き~とごろごろ転がりたくなる系の作品で、
    いまのところ今年のベスト1。
    最初から最後まで本当に好き。
    ついDVDも購入してしまった…


    ***********************************************************


    映画の中で、ネリー(エマニュエル・ベアール)は
    あなたは素っ気ないとか容赦のない性格だとか言われる。決断が急だとか。
    それは彼女の率直さを評してのことなんだけれど。

    率直というのを私も愛するけれど、最初から自己弁護が前提のそれはいただけない。
    その点、ネリーのはいやらしい甘えとはまったく無縁のそれでスッキリしていていい。
    一度だけ真顔で漏らす「ときどき不安になる」という台詞も、
    将来的経済的なことはまた別として、彼女の精神の脆弱さを表すものではなく、
    あくまでも自分を貫く潔さと引き換えの孤独ゆえなのだ。
    こういうふうにしか生きられない、
    自身に媚びることができない、
    そういう種類の人間なのよね。
    そんな人が主人公というのがとてもいい。

    強いというよりは、潔い。
    手に入りかけているものも、じっとさっと考えて時には手放す。
    もしかしてあとで少し後悔することになるとしても。
    自分じゃない、というものは断ち切ってしまう。
    でも、心がささくれだって誰かに冷淡だったりはしない。思いあがってもいない。
    自分の魅力を知っていて(男たち女たちからの視線の受け止めかた!)、
    女性らしい柔らかさ、あたたかさ、したたかさもしっかりとあって、そこもいい。

    そんな主人公と周囲の人々の関係を描いた作品が「ネリーとムッシュ・アルノー」。
    ヒロインが素敵なら、彼女の随分年上の友人ジャクリーヌもアルノー氏の20年別居中の妻もとってもいい女。
    男性陣もとてもチャーミングだ。

    みんな大人で、しかも大人の可愛げがある。
    大人の恥じらいと優しさと頑固さと不器用さ。
    愛が変容していくのと共に見せる複雑な表情がとてもよかった。
    思えば『夕なぎ』でのイヴ・モンタンとサミー・フレーの表情も素敵だったっけ。
    クロード・ソーテ監督作品の男たちについて、もっといろいろ見てみなくちゃいけない。


    ムッシュ・アルノーを演じるミシェル・セロー。
    (『Mr.レディMr.マダム』が強烈に刷り込まれているけれど、いつも眼が鋭いのよね)
    今回は見ながら、ふと己の老い、いずれやってくる年齢の生きかたなんかを
    なんの気負いもなく感じてみることができたよーな。
    つまり、何が必要で何が必要でないかというようなこと。人でも物質でも。
    たとえばアルノー氏は、膨大な量の貴重な蔵書を処分することにする。
    もう、読み返す本しか必要ないと言って。
    それと人間関係の柔軟さや時というものや可能性について。
    彼のアルノー氏は魅力的だった。
    夜中、ネリーをヴァンサンのもとへ送り出し、一人食堂でたたずむ姿が美しかった。
    アルノー氏とネリーの関係の描き方。素晴らしい。
    「人は愛を求めるが、愛に出会うと抑えてしまう」
    「ここにいて」
    「少しだけなら」

    アルノー氏の自伝を出版しようとしている編集者のヴァンサンが、
    ジャン=ユーグ・アングラード。
    『サブウェイ』でしょーか。やっぱり。『ベティ・ブルー』とか。
    でも、ちょっと苦手だなと長いこと感じていたんだけれど、ここではかなり良くてびっくり。
    というか、ヴァンサンが良かったのね。ヴァンサンという架空の男が。
    ネリーとはタイミングが合わなかったけれど、しかし、お互いの態度がすごくいいと思ったなあ。
    きっぱりしている。
    彼と寝た翌朝、ネリーが黒いワンピースのファスナーをあげるくショットで、彼女の白い背中がすーと吸い込まれていくさまがひどく美しくみずみずしかった。
    それをカフェオレボウルを持ったまま柱にもたれてじっとみている男。
    女は振り向いて、カフェオレボウルを受け取り、なんともいえない眼で彼を見ながらそれを飲むのだ。映画万歳。ここに台詞はいらない。

    ジャン=ピエール・ロリが演じるのが、国立図書館に勤めているクリストフ。
    ロリさんの作品4本目かしら。もちろん、やっぱりこの役が一番いい。
    知的で控えめに瞬間的に情熱をこめてネリーを見る眼がいい。
    ネリー夫婦とは長いこと友人で、ネリーの夫ジェロームと彼女を取り合う三角関係を避け、彼らの結婚後国外へ出て行ったらしいのがなんとなくわかる設定なんだけれど、
    離婚を決めた彼女に何度かさりげなくまわりくどく「愛してる」を言うのよね。
    「僕、脈あるだろーか?」かな?(笑)
    彼女はそれを笑って親密な友情以上にするつもりはないと態度で示すし、他の男とつきあうんだけれども、それでもクリストフはやっぱり彼女を見守っちゃうの。誠実な友情を捧げるの。
    彼にとって恋した人はネリーだけなんだろうな。もちろん別の女性に出会い、彼女を愛しているんだけども。
    そういうのはもうどうしようもないもんね・・・っていうようなのも好き(笑)

    それから、昔の愛情はお互いになく、離婚することになるネリーの夫ジェローム。
    これが『ドライ・クリーニング』での名演技が忘れられない(笑)シャルル・ベルリング。
    なんか、若いわ。微妙な感情の出し方が・・・好き。
    悪気なく、存外にネリーを傷つける笑顔。うまい。
    とんでもない男だけれども、しかし、憎いんではなくて…ずるいなぁ…でも、そんなもんかもしれない…という感じ。女をそんな気はないのに消耗させるというたちの悪い男、か。やーね(笑)


    とにかく、男たちの微笑みのエレガントさがとても印象的だった。
    はっきりと描かれるわけではないけれど
    それとなく感じることのできる互いを繋ぐ友情、
    親愛の情、相手の気持ちをおしはかるやさしさ、ためらいがちな恋愛感情…
    そういうものが好き。
    そして、別にそれは永遠でなくてもいいのだ。







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